東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2016年10月19日(水)
  • 動物

「蚕食鯨呑」(さんしょくげいどん)

 クジラが大きな口でガブリとひと呑みする「鯨呑」のような形の侵略がある一方に、カイコが小さな口で桑の葉を少しずつ食べる「蚕食」のような侵略もあるということ。カイコの一口は小さくともいつしか桑の葉は筋だけになるということで、「鯨呑」と「蚕食」とは異なった侵略の形をいいます。
 韓非子は「蚕食」(『韓非子「存韓」』から)という形で秦の侵攻について述べ、「鯨呑」の勢いによる一気の席捲(『晋書「慕容暐載記論」』など)はのちになると現われます。二者を連ねて「蚕食鯨呑」というのは清朝になってイギリスの手法に対して呼ぶようになり、孫文は「興中会宣言」の中で祖国の「蚕食鯨呑」の危機を指摘しています。いまでもたとえばトルコは、歴史的な経緯としてロシアによる「鯨呑」を警戒していますし、一方でIS(イスラム国)による「蚕食」という侵略とも応戦していますから「蚕食鯨呑」の国難のただ中にあるといえます。
 
  • 2016年10月12日(水)
  • 動物

「狡兎三窟」(こうとさんくつ)

 前回にひきつづいて、強者の多い原野で、とくに闘う武器になるような器官をもたない「平和主義者」である兎の生き方について。
 ずるがしこい兎は三つの隠れ場所を持っているというのが「狡兎三窟」(『戦国策「斉策」』から)です。ずるがしこいといわれようと、難を逃がれて生きていく道は、危機察知能力とすばしっこい逃げ足と三つの隠れ場所を持っていることにあるというのです。三つの隠れ場所の真ん中にいて、外敵の迫るのをいち早く察知して逃げ込みます。「二兎を追うもの」は六窟を相手にするのですから、一兎をも得られない結果になってもいたし方がないでしょう。
 戦国時代斉の孟嘗君の食客のひとり馮諼(ふうけん)は、「狡兎三窟ありてわずかにその死を免るるのみ」といって、
兎のように他の二窟を用意するよう勧めています。いまなら企業や個人が税逃れのためにする資金の海外隠しも「狡兎三窟」の類です。

  • 2016年10月05日(水)
  • 動物

「狐兎之悲」(ことのひ)

 原野でともに暮らしていた狐が死ぬと兎が悲しみ、兎が死ぬと狐が悲しむのを「狐兎之悲」(朱国蓮慷慰饐品』など)あるいは「兎死狐悲」(『三国演義「第八九回」』など)といいます。兎は狐にも襲われるのではないかと思われますが、同じ野に生きるもの同士の死や不幸に感じて悲痛の思いを共にすることとされますが、おそらく里人の実見した姿だったのでしょう。

 いまや野ギツネがいなくなり、それを悲しむ野ウサギも絶えました。「狐兎之悲」という四字熟語は、狐も兎も共に見なくなった野を、「狐兎のいない悲しみ」という別の意味合いでさまよっているようです。

 狐には「狐死首丘」(『礼記「檀弓上」』など)があって、狐はまさに死なんとするときに、自分の首を生まれた丘のほうにむけて死ぬと伝えています。大元をたいせつにして忘れないことに例えていいます。

 

 

  • 2016年07月06日(水)
  • 動物

「博士買驢」(はかせばいろ)

 主意を伝えない長々とした空文を書く知識人を「博士買驢」(『顏氏家訓「勉学」』から)と揶揄していいます。学者の尊大さをあしらう庶民にとっては小気味よい四字熟語です。ここでの「博士」は、学位ではなく、医学・薬学博士の兄弟がつくった「博士ラーメン」ほどの親しさでしょう。古代の鄴都での話なので、きっと「五経」など民衆の暮らしに関係がない知識をひけらかす人物を博士と呼んだのでしょう。
 そんな博士が市へいって驢馬を買うことになります。一頭の驢馬を選んでさて代金となって、驢馬売りに証明を求めます。当然に自分が代わって書くことになって3枚。やっと書き終わって抑揚よろしく読み上げました。驢馬売りが「3枚のどこにも驢がない」と指摘すると、そのとおりだったので博士は売り場でもの笑いになりました。なぜか安倍首相は参院選応援演説で「改憲」をいいません。選挙に勝つための「首相買憲」をキャスターに指摘されてキレるようでは、「改憲」の信は得られないでしょう。




 
  • 2016年05月05日(木)
  • 動物

「鳳毛麟角」(ほうもうりんかく)

 世にまれで貴ぶべき人物や珍しく得がたい事物を「鳳毛麟角」(蘇軾「送馮判官之昌国」など)といいます。鳳凰は伝説中の珍鳥ですし麒麟も伝説中の神獣ですから、鳳凰の毛麒麟の角も実は見たことがないのですが。「鳳毛」だけでも意味は十分ですが、「鳳毛麟角」の四字で超がつくレベルになります。
 人物ならノーベル賞受賞者クラスならいうまでもなく、技芸に優れた人間国宝も納得ですが、判断のつきがたい「鳳毛麟角」と呼ばれる人も学問や芸能やスポーツの分野に見受けます。事物ですと用例は多彩です。クラシックカー、鶏宝(漢方)、隕石、魯迅の直筆といったもの。世界で認められたブランド品、天皇家や幕府の御用達、ちゃっかり商品や高級高層マンションの名にも用いられています。
当代では見過ごされても真贋は歴史が決めることになります。そして「鳳毛麟角」の四字熟語は時代を越えて残りつづけることになります。
 
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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