東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「目迷五色」(もくめいごしき)

 色や香は五感を刺激し脳を活性化しますと有名化粧品の宣伝にありましたが、先人は逆に「目は五色に迷う」(沈徳符『万暦野獲編「国師閲文偶誤」』など)といいます。老子は「五色は人の目を盲ならしむ」、荘子も「五色は目を乱す」といいます。

人為的に目立つ色に迷わされていると、色を失っていく夕暮れの風景が目にやさしく、モノクロ写真や映画の情感に深い味があるのに気づきます。小津安二郎の映画『東京物語』もいいですし、アラーキー(荒木経惟)が見撮った愛猫チロ(22歳)の写真は、けっして失われないもののあることを伝えていました。

古来、伝統の五色は青・赤(朱)・白・黒・黄で、これがいわゆる正色です。正色の朱に対して間色の紅や紫が際立つことを「紅紫は朱を乱す」といいます。たしかに朱の衣よりも紫の袈裟や紅裙(紅いもすそ)のほうが目立ちます。しかし正統というものはワンポイント目立たないところにあることを伝えています。 

「七嘴八舌」(しちしはちぜつ)

 みんながそれぞれ勝手にしゃべって騒がしくしたり、異なる立場でそれぞれ口をはさむので議論がまとまらない状態のことを「七嘴八舌」(『官場現形記「五回」』など)といいます。多すぎて混乱する場合に七と八とを連ねて用いる例です。

ですから「七手八脚」というのも、満員の長距離列車やお祭りの雑踏のように、たくさんの人の手足が入り乱れているようすにいいますが、力を合わせてする場合にもいいます。しゃべるほうも「吵吵嚷嚷」(そうそうじょうじょう・チャオチャオランラン)となっては、もはや何をいっているのかわかりません。

 魯迅は、風刺家たちの「七嘴八舌」は何も産まないといって避けていますが、いまやインターネット(因特網)時代ですから、何でもやってきます。政治家も、TV・ラジオの司会者も、企業経営者も、教師も、バスの運転手も、感謝の少ない世の中を「七嘴八舌」にさらされながらわが道をゆくのですからたいへんです。

「眉来眼去」(びらいがんきょ)

 眉をちょっと動かすほどの情報だけで眼で応えてくれるほどの間柄であること。恋人同士なら野暮ったいことばより「眉来眼去」(辛棄疾「満江紅」など)のほうが思いが伝わる。仲むつまじい夫婦の間なら「夫唱婦随」といったところでしょうか。なさぬ仲の美女貂蝉が、董卓の宴席で呂布との間で酒を酌みながら交わす「眉来眼去」(『三国演義「八回」』から)は隠微です。美女による「連環の計」として、『三国演義』の見せ場のひとつです。

女性の眉に魅力があるというので、眉筆のキャッチフレーズにもなります。眉峰から眉尾まで形と色で眉を画く技法と魅力が仔細に語られます。

美人だけではありません。国同士にだって「眉来眼去」があります。ロシアはウクライナとEUがそういう関係にあるというし、中国からはインドと日本が「眉来眼去」の間柄に見えるようです。

「刮骨療毒」(かっこつりょうどく)

 さすが「故事成語」の国、習近平主席もよく四字熟語を用いて講話に風格を添えています。国家のリーダーが自国の先人の事績を引いて自説の糧とすることはどこも同じですが、この「刮骨療毒」(『三国志「蜀書・関羽伝」』から)は、腐敗が「骨をけずる」ほどに深く、根本的な治療が求められるという深刻な認識をもって行動しようと、「反腐敗」を呼びかけての引用です。開会中の全人代(国会に相当)では、公務員の汚職などでの立件が8%増えて5万1300人余だったことを、「反腐敗運動」の実績としています。大戦後のわが国の官吏が、国・地方を問わず、いかに公僕として「国土の均衡ある発展」に尽くしてきたかを知ることになります。

ここでの先人は、国民的ヒーロー三国時代の蜀の英傑関羽です。関羽の左腕にささった毒矢の毒が骨に及んだため、医師は臂を破り骨を刮り毒を取り去ったといいます。その間、仲間と談笑していた関羽の豪胆さにも学ぼうというわけです。

「胸有成竹」(きょうゆうせいちく)

暮らしの中に竹かんむりの字が多いことからも、竹はさまざまな用途をもった植物として利用されてきたことがわかります。まず筆がそうですし、竿、箒、箸、箱、籠、笛、笠・・節や筋や算もそうです。また竹はそのたたずまいを愛されて、詩画としても数多くの名品が残されています。

竹の画に秀でた人といえば北宋時代の文与可でしょう。四川に住んで、春秋、朝夕、晴雨といった自然の変化の中で、竹を仔細に観察しつくして描きました。同時代の文学者晁補之は「胸中に成竹あり」(『鶏肋集・八』から)と称賛しています。

ことをなす前に胸中にしっかりした結果が見えている(成算がある)例として用いられます。TPPへの日本の加入について、『人民網』は「賭博かそれとも胸有成竹?」の見出しを付けました。賭博はないでしょうが、といって政府に国民を納得させる「成竹」が胸中に描けているのかどうかはあやういところです。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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