東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「信誓旦旦」(しんせいたんたん)

 日本語の音読みで「たんたん」といえば、淡々や坦々や眈々が思い浮かびますが、この「旦々」は日が地平にあらわれたときのような明瞭で誠実なようすをいいます。「心口如一」が「信」ですから、「信誓旦旦」(『詩経「衞風・氓」』から)といえば、真心を込めた「誓い」が誠実で信用できるということになります。聞いているみんなが明るくなれる心地良い四字熟語です。
 結婚式の誓いや新入生への学校長や新入社員への社長の訓示などは率直に納得してもいいのですが、政治家の場合にはみずからが「信誓旦旦」と前置きしても明々白々とはいかないのはどこの国でも同じようです。
 一方で「信口雌黄」(郭沫若『屈原「四幕」』など)となると、古くは黄紙に記した誓文の誤りを、雌黄(顔料・鶏冠石)を塗って重ね書きして直したことから、根拠のない言説や責任のない論評をいいます。
 

「無地自容」(むちじよう)

 自らの身を置く場所がないほど羞恥や恐れの極みにあることを「無地自容」(朱熹「与呂伯恭書」など)といいます。恥ずかしくて穴があったら入りたい(使穴可入)、無ければ冷や汗をかいて持ちこたえるしかありません。

ニセモノを展示してしまった博物館の館長、エジプトの古跡に「到此一游」と刻んでしまった子の両親、五輪エンブレムでデザイン盗作を指摘されたデザイン審査委員、そして国民の支持が得られず、憲法違反が指摘される「安保法制」を通そうとする政治がまかり通る国の憲法学者や歴史家や後人の命を思う市民たち。

戦前の始まり。「平和」(戦争)は戦禍の悲惨さを胸から胸へ伝えなければ守れ(止められ)ないときを迎えています。かつて90年代にロック・グループ「黒豹」が歌った「無地自容」は、「いまわたしはこれまでのわたしではない」(在不是従前的我)HI YE HI YE と、何かの始まりを暗示して終わっていました。

「泣涕如雨」(きゅうていじょう)

 声にこそ出さないものの、眼から雨のように大粒の涙を落として離別の悲痛に耐えることを「泣涕雨の如し」(『詩経「邶風・燕燕」』など)といいます。『詩経』ではふたたび会えない女性を、野に遠く見えなくなるまで送ったシーンでの涙ですが、幽明境を異にする場面での「泣涕如雨」は、「管鮑之交」で知られる管仲の姿にそのきわみをみます。管仲は自分をよく知り何度となく危機的困難を支えてくれ、みずからは下がって自分を宰相にしてくれた友人の鮑叔芽が死んだ時、低い声で哭き、抑えきれない涙が雨のように下ったといいます。「泣下如雨」ともいいますが、この管仲の姿は、「管鮑之交」ということばに込められたふたりの友誼の深さを伝えています。

柳田国男は、泣くことの少なくなった文明人はことばの力を過信している、「音声や『しぐさ』のどれくらい重要であったか」(泣涕史話、昭和15年)と、講演で言及しています。率直なボディ・ランゲイジ、男泣きの姿を見たいものです。

「奔走相告」(ほんそうそうこく)

 非常時や重大時などの緊迫した場面に、走りまわって知らせ合うのが「奔走相告」(韓愈『昌黎集「二四」』など)です。古くから任務として「告奔走」(『国語「魯語下」』)が知られます。嬉しいことの場合なら「喜笑顔開」しながらの「奔走相告」となります。裁判で無罪判決が出て、その報告をみんなで「欣喜若狂」して喜び合う姿などがいい例でしょう。中国では4月3日〜5日が「清明節」の3連休でした。日本のサクラの評判を聞いてツアー客がどっと増えて、上野公園は昨年より40%も多い人出となり、どこでも中国語の歓声が聞かれたといいます。

肉声が届く口コミの範囲での喜びは共有できますが、いまやツイッター時代ですから電波が走ります。宮崎駿『天空の城ラピュタ』のTV放送時にTPS(1秒ツイート数)が14万回になり話題になりました。グーグル検索数の「女性」は時に4億2500万件、「男性」は時に2億2000万件。そのトップページ記事はにわかに共有しかねます。

「一字一泪」(いちじいちれい)

 漢字はその成り立ちからいって、一字がそれぞれの意味をもつことから、文中のひとつの文字に感極まってなみだするという「一字一泪」(李贄『焚書「書答」』など)には実感があります。「一言一泪」なら日本語の詩文にもありうるでしょう。
 また文章が一字の増減も許さないほど達意で、一字に千金の値打ちがあることを誇示する「一字千金」もあります。秦の呂不韋は『呂氏春秋』を撰して都の咸陽の市門に掲げた時おおいに誇りとし、一字でも増減しうる者があれば千金を与えると豪語しました。「一字千鈞」のほうは重さ(「一言九鼎」は前出)ではなく、魂を揺するほどの詩品の高さをいいます。
 また「一字一珠」はすばらしい詩文や歌声の円潤なことにいい、「一字見心」は書き手の思いは一字に読みとることができることにいいます。一字が「千金」「千鈞」「一珠」「見心」「一泪」とくれば、やはり「一字」は「一泪」に極まります。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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